久しぶりのひとり
雪の多い田舎から、「冬…どこ?」な都会に久方ぶりに降り立った私は、迷っていた。
子供を産んで、久々の1人時間。
友達と今夜、ライブを見に行くのだ。
あまりにも身軽、あまりにも軽い荷物。
忘れ物をしてないか、行きの電車の中で、何度もバッグの中を確かめた。なにひとつ忘れてない。
1人って、こんなにも軽かったか。
風が吹いてきた。
さすがに雪がなくても冷たい風。
まだ迷っていた。
今夜、ライブを最後まで見て、泊まって帰るか、それとも、途中で切り上げて、終電で帰るか。
終電と言っても、都会のそれよりはるかに早い時間のである。でも、田舎にその日中に帰るにはそれしかない。
迎えにきてもらえる距離でもない。
でも、でも。
今日までの日を、指折り数えてきた。
「ほんとに久しぶりだね、会えるの楽しみだよ」
友達がそう言ってくれて、うれしかった。
何時頃終わるかな?
「今回、ライブ長いから、最後まで楽しもうね!」
平日とあって、駅前のホテル案内にも「空室」の文字が。スマホをのぞけば、シングルひと部屋くらいすぐに見つかりそうだった。
いいじゃん、一晩くらい。
という気がした。
でも、でも。
夫はなにも言わないけど、さすがに朝帰ってくるとは思ってないんじゃないだろうか。
機嫌の悪い顔が浮かんだ。
いつもはっきり文句を言われることはない、それでもなにか文句がある時に、よく見かけるあの顔。
少しくらい、困ればいいんだ。
私だって毎日頑張ってる。
夫だって飲み会だなんだって遅く帰ってきて、朝起きてこないことなんてよくある。
それと同じだ。
少しくらいワンオペ育児の大変さを実感したらよい。
結婚して子どもができる前は
友達と全国行けるとこは、全部遠征していた。
たくさんの思い出がよみがえる。
子どもができた途端、いちばん近い所を一か所だけ。しかも日帰り。
はっきり言って、全然物足りない。
「今日より先週が選曲はよかった」
Twitterでの他人の発言に、いちいち傷つく。
駅まで来た。
時刻表を眺める。
自分の家まで帰るには、ここに何時までに来なくてはいけないか。会場までの距離、タクシーを使えば…
自分だけが貧乏くじをひいたような気がした。
もし、あのままここにいたら?
田舎の人と結婚しなかったら?
子どもを産まなかったら?
今更、そんなこと考えても仕方ないのに。
子どもの顔を思い出す。
今頃なにしてるかな?
「ねえ、ママいつ帰ってくるの?」なんて聞いてるのかな。
明るいうちはいいけど、夜になっても、朝が来ても、私がいなくて、平気かな。
LINEを開く。
夫の画面
「今日、終電間に合わなそうだから、泊まって、明日朝イチで戻るね!」
友達の画面
「今日、終電で間に合うように先に帰るね!
また今度ライブ後にゆっくり飲みたいな!」
どっちの文面も完成して、紙飛行機のマークを押すだけになっている。
頬が冷たい。
どこかで温かいお茶でも飲もう。
という夢を見た。
目が覚めて、夢だと認識するまでに少し時間がかかった。
今の私なら、終電一択だな!
ていうか、多分最寄りでも行けないな…
ファンクラブやめちゃったし、子どもふたり旦那に頼んで、ひとりだけ遊びに行けない。
罪悪感で。
損な性分だなという自覚はある。
ひとりでいらんことまで我慢して、自分からストレスをためこんでいる。